殺菌剤、効き目の違う薬剤で定期散布が絶対必要、同じ薬剤は効き目ナシ

家庭菜園、同じ殺菌剤を繰り返し散布しているが、野菜の病気が良くなるようには思えない。

こんな方におすすめします  

  
  • 野菜を病害から守ってくれる殺菌剤、正しい散布のやり方を知っていますか
  • 野菜の病気、病原菌の薬剤抵抗性、耐性菌、聞いたことがありますか
  • 同じ薬剤を繰り返し使うと、薬剤の効き目が無くなってしまうことをご存じですか
 

私は、キュウリの葉のべと病、褐斑(かっぱん)病、ナスの半身萎凋(はんしんいちょう)病など、毎年いろいろな病気に悩まされてきました。その都度、ただただ殺菌剤を散布してきましたが、これでは効き目が無いことをあらためて知りました。

この失敗経験から、ここでは  

  • 殺菌剤、散布すればするほど薬剤の効き目がなくなってしまうのはどうしてか
  • 薬剤散布の基本、定期の予防的散布とローテーション散布の必要性とは
  • 同じ有効成分の薬剤を使わないために、FRACコードで薬剤を調べる方法
  これらについて解説をします。 

積雪の多い東北南部で、20年以上、100坪程度の家庭菜園をやってきたおじさんの経験から、殺菌剤散布のポイントについて知ることができます。散布の基本は、予防剤の定期散布で病気の発生を未然に防ぐこと。

それでも病気が発生してしまったならば、治療剤でドンピシャと抑える。同じ薬剤を繰り返し散布すると効き目は無くなる。同じ薬剤を使用しないためにFRACコードを活用する。

これらを知り、実行することで病気の発生に必ず変化が生まれ、栽培期間も長く、管理がずっと楽になります。是非ご一読いただき実行してみてください。

1.殺菌剤は、べと病などの病気被害から野菜を守るための薬剤

殺菌剤とは、菌を殺すための薬剤です。菌とは病源菌を指し、病気の8割は糸状菌(かび)が原因です。

べど病、うどんこ病などは、野菜の代表的な病害です。そのままにしておくと、あっという間に感染し、すべての葉はしおれて枯れてしまい、最悪は収獲ができません。これらの病気はいろいろな野菜へと感染し、ほんとうに困った、典型的などうしようもない病気といえます。

この病原菌を殺菌(菌を殺す)して活動させない、野菜を病気被害から守るための薬剤が殺菌剤です。(一方、殺虫剤は害虫を退治することで、野菜をまもる薬剤)

殺菌剤には、予防剤と治療剤がある

殺菌剤は、予防剤と治療剤(予防効果を兼ね備えた薬剤もある)に分類されます。

予防剤は、薬剤を散布することで、野菜の葉や茎の表面に付着した病源菌が、野菜の体内(細胞内)に侵入しないよう、繁殖しないようブロックする役割。薬剤が体内に浸透する力は無いので、体内に侵入した病源菌を殺菌する力はありませんが、予防効果には優れています。

定期的な予防散布で病気が発生しないよう、事前に散布して効果が得られる薬剤です。

治療剤は、野菜の体内に侵入した病源菌の殺菌に効果があります。ただし、感染した葉や茎を元通りに回復させるのではなく、これ以上病気が広がらないよう進行を抑え、病原菌を一掃するのが目的。病気の発病直後での散布が効果的です。

治療剤の多くは、定期的な予防散布には向いていません。なぜならば、最初は治療効果があっても繰り返し散布すると効果が無くなってしまうというリスクがあります。

薬剤散布の基本は、予防剤の定期散布で病気の発生を未然にふせぎ、それでも病気が発生してしまったならば、治療剤でドンピシャと抑える。治療剤は最後の切り札です。

予防剤、治療剤の区分について、薬剤ラベルにはほとんど明記されていないです。販売店での薬剤名札や店員に確認してください。インターネットで分かる場合もあります。

(キュウリの葉の病気 褐斑病、炭疽病)

2.同じ薬剤を繰り返し散布すると、病原菌は抵抗力をつけて強くなり、薬剤効果がなくなります

同じ薬剤を繰り返し散布すると、殺菌剤の防除効果は低下します。なぜならば、病原菌が同じ薬剤に対して抵抗力を持ってしまう。これを「薬剤抵抗性」といい、野菜に対して殺菌剤が効かない、効きにくくなってくる現象です。

これは、病原菌がその薬剤に耐える(抵抗する)力を持つことであり、強くなった病原菌を「耐性菌」といいます。耐性菌が多くなれば殺菌剤の効果は無くなり、感染が拡大し被害が大きくなります。

予防的散布とローテーション防除

病気の兆候がある場合は初期防除がいちばん。発病初期に散布することが被害を抑える最大のポイント、広がってからでは難しく、そこで有効なのが「予防的散布」です。病害発生前から予防剤を定期的に散布しておくこと、耐性菌をださないための有効な手段です。

耐性菌リスクを低くするもうひとつの方法は、ローテーション散布です。殺菌剤の有効成分(化学的分類)の違う薬剤をローテーションを組んで散布します。なぜならば、同じ薬剤を繰り返し散布するのではなく、違う種類の薬剤に換えることで耐性菌発生のリスクを抑えることができます。

たとえば、A薬剤の次にB薬剤、さらにはC薬剤、交換しながら定期的に散布を行い、またA薬剤に戻すなどの方法です。この方法を「ローテーション防除」といいます。

病害防除の最重要ポイントは、「定期の予防的散布」を基本とし、「違う薬剤でのローテーション防除」、「同じ有効成分の薬剤を繰り返し散布しない」これらは必ず押さえておくべきです。

3.ローテーション防除とは、違う薬剤を定期的に散布すること

違う薬剤をかわるがわる、定期的に散布することをローテーション防除といいます。違う薬剤にするのは、病原菌の抵抗力が強くならないよう、耐性菌の発生を抑えるためです。

下記はローテーション散布の具体例です。予防用としてA剤とB剤の2本、治療用①と➁の2本を用意します。

(1)病気が発生していない場合の定期予防散布
⦿予防A剤散布  ➡ 予防B剤散布 ➡ 予防A剤散布 ➡ 予防B剤散布
 AとBを定期的に繰り返し散布する

(2)定期予防散布の途中で病気が発生した、治療剤散布のタイミングは
⦿予防A剤散布 ➡ 予防B剤散布 ➡ 病気発生、治療剤➀散布、様子を見て、治ったなら 
 ➡ 予防A剤散布からの定期繰り返し

(3)定期予防散布の途中で病気が発生し、治療剤➀散布で治らない場合
⦿予防A剤散布 ➡ 予防B剤散布 ➡ 治療剤➀散布  ➡ 治療剤➁散布
 様子を見て、治ったならば  ➡ 予防A剤散布からの定期繰り返し  ➡ 

上記はひとつの例です。定期的な予防散布が最も重要です。

ここでのポイントは、用意する薬剤の本数もありますが、違う薬剤を定期的に散布する。違う薬剤とは、薬剤名が違えばそれでよいのではなく、大事なことは有効成分の違う薬剤です。

4.薬剤名が違うのに、有効成分が同じ薬剤は効き目が弱くなる

薬剤名(商品名)が異なることで違う薬剤になるのか、必ずしもそうとは言えないです。

なぜならば、違う薬剤とは有効成分の違う薬剤であり、有効成分が同じで、違う商品名の薬剤は数多くあります。

薬剤の効き方、それは薬剤の有効成分で決まります。同じ成分を繰り返し散布すれば効き目は無くなり、耐性菌が増え被害が大きくなるだけです。

販売されている薬剤の中には、有効成分、成分含有量などの登録が同じでありながら、薬剤名(商品名)がまったく違う薬剤、あるいは販売先によって商品名を変えている場合もあります。

私の不適切な使い方の具体例として、

キュウリのうどんこ病、べと病対策としての殺菌剤商品名は、「ジマンダイセン水和剤」、「ベンコゼフロアブル」をローテーション散布していた。調べると、同じ成分、同じ系統を使用していることが分りました。

下記の(1)(2)(3)は、有効成分が同じなのに商品名と販売メーカーが違います。

(1)有効成分 マンゼフ゛ 80% 【 FRACコード  M3 】
・ジマンダイセン水和剤--- (ダウ・アグロサイエンス日本株式会社)
・ジマンダイセンTM水和剤--- (日産化学)
・MICペンコゼブ水和剤---(三井化学クロップ&ライフソリューション株式会社)
・クミアイペンコゼブ水和剤----(クミアイ化学工業)

(2)有効成分 マンゼフ゛  20% 【 FRACコード  M3 】
・日農ジマンダイセン フロアブル----(日産化学)
・ジマンダイセンフロアブル-----(ダウ・アグロサイエンス日本株式会社)

(3)有効成分 マンゼフ゛  28% 【 FRACコード  M3 】
・クミアイ ペンコゼブフロアブル----(クミアイ化学工業)
・MICペンコゼブフロアブル---(三井化学アグロ 株式会社)
 ※ 三井化学アグロは三井化学クロップ&ライフソリューションに社名変更

下記は、有効成分は同じですが、商品名、メーカー名が違います。

(4)有効成分 カスガマイシン、銅 【 FRACコード 24.M1 】
・カスミンボルドー -----(北興化学)
・カッパーシン水和剤 ----(MMGA)

薬剤には有効成分の違いからくる系統があります、それは効き方の違いを意味します。ほんらいならば、(1)から(3)までの8本から1本を選択(FRACコードがすべてM3で同じなので)、(4)から1本だけ選択して、この2本でローテーションするのが正しい散布方法です。

同じ成分、同じ系統の殺菌剤を繰り返し使うこと、原則として避けること。


FRACコード M3はすべて同じ系統を表します。FRACコード 24.M1はM3とは違う系統の薬剤です。(FRACコードは後述します)

薬剤の効き目、それは有効成分にあり、有効成分の化学的内部構造でグループ分けができます。これが系統(けいとう)です。系統は有効成分の構造がつながっており、共通しています。

系統が似た同じようなグループの薬剤は、病源菌の防除方法(菌への攻撃する仕組み)が同じなため、繰り返し使い続けると薬剤の効果は低くなる。病原菌に対して同じように効くことは、いずれ効かなくなることにつながるからです。


なぜならば、その薬剤にたいして病原菌の抵抗力が強くなる。すなわち、「薬剤の同じ成分、同じ系統の薬剤を繰り返し使用すると薬剤効果は低下する」ことが最大の注意点です。

5.薬剤の系統を知るには、FRACコード一覧で確認ができる

殺菌剤の適切な使い方、FRACコード(記号.番号)の違う薬剤でローテーション散布する。なぜならば、コード内容が異なれば、病原菌に対する効き方が違うので、薬剤抵抗性(耐性菌の発生)を抑制できる。

コードの違いが系統の違いになり、コードの違う薬剤を簡単に選択できる。

たとえば、キュウリのべと病に効くジマンダイセン水和剤、有効成分マンゼブ、FRACコードは「M3。もうひとつの予防剤カッパーシン水和剤、有効成分カスガマイシン、FRACコードは「24.M1」。

RACコードは、系統がわかるよう世界農薬工業連盟が作成した。

読みはラックコード。RACとはResistance Action Committeeの略称で、日本では、「抵抗性(耐性)対策委員会」と説明され、農薬の作用機構分類を掲載している。簡単に云えば、すべての農薬の効き方(作用性)を分類して数字とアルファベットの組み合わせで記号(コーど)を割り振ったもの。

◉ 殺菌剤はFRAC(エフラック)コード、殺虫剤であればIRAC(アイラック)コード

・Insecticide Resistance Action Committee(IRAC、殺虫剤抵抗性対策委員会)

・Fungicide Resistance Action Committee(FRAC、殺菌剤耐性菌対策委員会)

RACコードを調べるには、JCPA農薬工業会のホームページ参照(2024年5月、クロップライフジャパンに名称変更)

※ RACコード別農薬名(有効成分名・商品名)一覧
 殺菌剤 FRACコード表日本版(2024年4月)こちらをクリックしてください。

※ FRACコード分類についての資料です。
 FRAC 作用機構分類一覧表、こちらをクリックしてください。

商品のFRACコードは、「殺菌剤の分類」と表記されているので注意が必要

FRACコード表示のしかたについて、

販売されてている商品の薬剤ラベルにFRACコードという表記はほとんどありません。代わりに「殺菌剤分類」と表記されています。例としては「殺菌剤分類M5」など。

現在、RACコードの表記方法は統一化されていません、表示義務もありません。薬剤袋、薬剤瓶のラベルは、文字を黒背景白抜きにするパターンが多く、見にくいので要注意です。 

 

ダコニール1000
( ダコニール1000 )
ダコニール1000 FRACコード
( 殺菌剤分類 M5 )

コサイド3000
( コサイド3000 )
コサイド3000のFRACコード
(殺菌剤分類 M1)

6.露地キュウリ防除、FRACコードの異なる薬剤を選ぶ具体例  

ここでは、露地キュウリの防除について、FRACコードから、使用する殺菌剤の選択手順について説明します。

 ◉ 最大の注意点は、FRACコードの番号の異なる薬剤を選ぶこと、これにつきます ◉
 

(1)キュウリの病気、なにの病気を防止するために殺菌剤を散布するのか決める。具体例は、べと病、うどんこ病、褐斑病(かっぱんびょう)を優先し、他の野菜全般にも効果のある薬剤を選択する場合です。

(2)予防剤と治療剤を2本ずつ用意する
➀予防剤  ダコニール1000  【 FRAC M5 】
 有効成分は、TPN、 250ml 1000~1400円程度

➁予防剤  ヨネポン水和剤  【 FRAC M1 】
 有効成分は、ノニルフェノールスルホン酸銅、 500g 1600円程度

➂治療剤  テーク水和剤  【 FRAC 3、M3 】
 有効成分は、シメコナゾール、マンゼブ、  250ml 1000円程度

➃治療剤  カッパーシン水和剤  【 FRAC 24、M1 】
 有効成分は、カスガマイシン、塩基性塩化銅、 100g 1000円程度

 

・必ずFRACコードの異なる薬剤を用意すること。FRACコードが同じであれば、薬剤名が違っても効果は限定的かつ効かなくなってしまう。

・予防剤は、1~2週間の間隔を目安に定期的に散布する。治療剤は、病気の初期散布が効果的。

( キュウリのネット棚 )

7.まとめ

殺菌剤を適切に使用するには経験が必要。定期的な予防散布をやることで、病気発生に変化があらわれます。上手にできれば効果は大きいです。

  • 殺菌剤は病源菌を殺すための薬剤、害虫退治の殺虫剤ではない
  • 殺菌剤には予防剤と治療剤があり、予防剤の定期散布が最も重要
  • 同じ薬剤を繰り返し散布すると、病原菌の抵抗力が強くなり、薬剤の効き目がなくなる
  • 違う薬剤をローテーション散布すること、違う薬剤とは、有効成分、系統が違う薬剤
  • 薬剤の商品名が違っても、有効成分は同じである薬剤が多いので注意
  • 違う薬剤を選択するには、FRACコードの違う薬剤を使用すると間違いない
  • FRACコードの表記は、薬剤袋、瓶などに「殺菌剤分類」と表記されるので注意
 

 結論は、FRACコードの違う薬剤を使用すること定期的に予防散布を行うこと。是非とも実施してみてください。

参考 : キュウリ栽培、殺菌剤・殺虫剤・RACコードが分かる

おまけです。
夏秋キュウリ、病害虫防除基準を記載したサイトを紹介します。対象病害虫名、薬剤名、RACコード、殺菌剤の予防、治療効果、使用回数、注意事項などが分ります。お住いの地域のJAホムページなどを参考にするのもよいです。

(1) JA山形おきたま、 令和6年度 野菜類耕種的・物理的防除、発生予察に基づく防除

  4ページに記載。令和6年度、夏秋きゅうり病害虫防除基準

(2)  JAさがえ西村山、令和6年用夏秋きゅうり病害虫防除基準

  こちらからどうぞ

(3)病気のごとの留意事項、防除方法が丁寧に記載されており、一読に値します

  令和6年版大阪府農作物病害虫防除指針

キュウリ栽培、病気に対する殺菌剤、FRACコード一覧表

一覧表は、私用に作成したものです。値段の安いものをチェックして用意します。

一覧表が見にくい方は、下記のキュウリ殺菌剤一覧をクリックしてください。(エクセル2013)

キュウリの殺菌剤一覧表

ご訪問いただき有難うございました。

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